作曲家がその最期の時に生み出す神がかった名作品のことを、音楽家たちは「白鳥の歌」と呼びます。
白鳥の断末魔の声は得も言われぬ美しい、ということからです。
有名作曲家には短命の方が何人かいますが、Giovanni Battista Pergolesiペルゴレージは中でも特に、26歳で亡くなるという短さ。
1710〜1736。 バロック最終期の「幻の」「伝説の」作曲家です。
ペルゴレージは、当時主流だったオペラ・セリア(歴史や神話やキリスト教を扱った壮大なもの)をたくさん作ってどれもそれほど大きな人気は出ず、市民達の日常生活を舞台にした軽妙なオペラ・ブッファは作る端から次々とヒット。
聴く人の心にダイレクトに響く美しさと、短い時間でドラマを描き出す構成の奥行きの深さが、自分の持ち味なのだと、気づいた時には20代半ばに近づいていました。
音楽家にとって一番大切な「自分の道を見つけること」が出来かけた矢先に、その人生を終えてしまったのです。
ちなみに、代表作となった幕間劇『奥様女中』にも描かれる「市民が貴族を揶揄する」ストーリーはそのまま当時の世相を表していて、この劇が大ヒットしたパリでの観客の気持ちが後のフランス革命へとつながります。
そして今回演奏するペルゴレージにとっての白鳥の歌である『Stabat Mater スターバト・マーテル』が、今リハーサル中の私たちに与えてくれるこの感動は、何と言ってもこの“旋律の美しさ”から。
宗教曲であるという一見すると敷居のありそうに思えるカテゴリーでも、バロック期の終わりを告げるそれまでに無い斬新な作り方と、そして「息子が目の前で亡くなってゆく様を見せられ立ち尽くす母親」のこの世でいちばんの悲しみと悲惨さを現すこの旋律の圧倒的な美しさが、私たちのパフォーマンスしだいでは、お客様の心を揺さぶることが出来るかもしれない。
ひとつひとつは短い歌が12曲ある組曲です。
当日配られるプログラムには、12曲それぞれがどんな場面を歌っているのかを、指揮者によってひと言で書かれています。
「十字架のもとに絶望して立ち尽くす聖母マリアの姿」「剣で刺し貫かれたイエスの苦しみ」「ついにイエスの死を看取ったマリアの姿」など。
これらを知ってから聴いていただければ、ラテン語であってもより深く感じていただけると思います。
皆様のお心に、私たちの歌声によってたくさんの感動が起こりますように。
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